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2013/02/01

誰が見るのか、リブート版「ハーロック」

松本零士の「宇宙海賊キャプテンハーロック、30年ぶりにアニメ化だという。水面下で動いていた話だということは知っていたので驚きはない。
これは1983年のTVシリーズ
わが青春のアルカディア 無限軌道SSXから30年ぶりに東映動画でアニメ化されるということを言っているようだ。しかしハーロックが登場するアニメというと、2003年にSPACE PIRATE CAPTAIN HERLOCK OUTSIDE LEGEND 〜The Endless Odyssey〜』というタイトルでOVA化され、日本テレビ系で放映もされているので、実際は10年ぶりの映像化である。しかも、こっちはマッドハウスの制作だというから驚きだ。



「キャプテンハーロック」製作費27億円で
今秋アニメ映画化

 人類のために戦う宇宙海賊の勇姿を描いた松本零士の代表作が「キャプテンハーロック(仮題)」として今秋にアニメ映画化されることが発表された。その特報動画も公開された。
 1977年に発表された漫画「宇宙海賊キャプテンハーロック」は、地球連邦政府に反旗を翻す翻しながら、人類のために戦う宇宙海賊キャプテンハーロックと、無敵の宇宙戦艦アルカディア号に乗り込んだ40人の仲間たちの物語。
 これまでにも、繰り返し映像化されてきたが、今回は東映アニメ史上最高額となる総製作費3000万ドル(約27億円)をかけ、原作総設定に原作の松本、監督にアニメ映画「アップルシード」の荒牧伸志、脚本に「亡国のイージス」で知られる作家の福井晴敏らを迎えて映画化する。
 報道陣向けに配布された資料によると、「単なる過去作品のリメークではなく、昔の『バットマン』と『ダークナイト』などのノーラン版バットマンの関係に似て、外伝とも言える世界を再構築しており、リメークというより”リブート”(再誕)と言えるかもしれない」と記載されており、原作の魅力とハーロックというキャラクターの陰影を最大限引き出すため、現代社会が持つテーマを投影したストーリーと設定に再構築するという。
 テレビアニメの「宇宙海賊キャプテンハーロック」はフランスを始め、ヨーロッパでも国民的アニメとして圧倒的な支持を得ており、「このコンテンツの主要な市場は世界。スタッフは世界で戦うアニメ日本代表です」と宣言。日本だけでなく世界各国での公開を視野に製作が進められているようだ。日本では今秋公開される。

「キャプテンハーロック(仮題)」
今秋、全国ロードショー

(2013年1月31日  読売新聞)




映画界・アニメ界では、「リブート」にブームの兆しである。
ブート boot とは、「起動」の意味なので、リブートは「再起動」ということになる。
映画の世界では「リメイク」というコトバが使われすぎて新味がなくなってしまったせいなのか、昨年あたりから「リブート」というコトバが使われ出した。
最初に宣伝で「リブート」を言い出したのは、「アメイジング・スパイダーマン」だったか、あっという間に拡がった。

「宇宙海賊キャプテンハーロック」もリブートするのだという。
クリストファー・ノーラン版「バットマン」を引き合いに出してきた。ノーランがバットマンをあらたに描いたように、この「キャプテンハーロック」という映画もハーロックを新たに描くなどと言っている。
よりによって、CGアニメ映画化だ。地雷とも思えるCG映画なんだという。
今どき、松本零士絡みの企画に出資する人たちがいて、自己申告27億円だかのビッグバジェットがつくという状況に驚きを禁じ得ない。
だって、1990年代の早い時期に、松本零士は消費され尽くして終わっていたと思うので。

「宇宙戦艦ヤマト」のヒットがきっかけになって松本零士はなぜかアニメ業界において注目の的となり、「銀河鉄道999」「宇宙海賊キャプテンハーロック」「千年女王」「わが青春のアルカディア」「クイーン・エメラルダス」などがアニメとなった。
「宇宙海賊キャプテンハーロック」は原作のマンガが中身が薄い作品だったという記憶しかない。単行本を買って読んだ記憶があるがどんな話だったか思い出せない。ハーロックが延々とモノローグで何ごとか呟いているような印象で、話の内容がいっこうに思い出せない。
原作とは違うオリジナルな展開になったアニメ版は活劇というよりも、りんたろうと脚本の上原正三の意向が強く反映した「死に場所を求める男の物語」になっていた。
映画「銀河鉄道999」ともども、りんたろうの作品であって、松本零士の作品ではないと言っていい。

「宇宙戦艦ヤマト」、ヤマトの予想外のヒットが火付け役となり、松本零士の市場価値は高くなった。平たく言うと松本零士という看板を出せば儲けることができると踏んだ連中が少なからずいて、どんどんアニメ化を仕掛けた。
当初、「銀河鉄道999」について言えば、制作スタッフに恵まれて広告戦略もうまく行って、大ヒットとなり、松本零士の名を高めた。
しかしながら以降の作品は、中身が薄っぺらで言っていることがループしていることが知れ渡り、あっという間に消費され尽くして〈松本アニメ〉ブームは終焉した。
一方、松本零士御大が描くマンガも中身はなく、絵は荒れていた。



松本零士御大の描くマンガは、誰の目にも手抜きが明らかなほどに劣化していった。各種の連載作品がスカスカな絵で内容のない話がダラダラ続くようになったからだ。
コマ割りがやたら大きくなり、話しらしい話が出てこず、毎回見開きのページに巻きものの上に詩のようなものが書かれてお茶を濁すのが常だった。
これはマズイなという感慨を持ったが、その時点で松本零士への関心がなくなって、しだいにその名も忘れていった。
西崎義展との「宇宙戦艦ヤマト」著作権裁判や、槇原敬之が盗作をしているという誹謗中傷騒動で名前を聞いたくらいか。

そして、10年ほどの時間が過ぎた。

「宇宙海賊キャプテンハーロック」がリメイクされるという。
さらに、「超時空戦艦まほろば」なるマンガも「Cosmo Super Dreadnought まほろば -超時空戦艦-」なるタイトルで映画化されるという。著作権裁判を経て、「宇宙戦艦ヤマト」そのもののリメイクができなくなった松本零士による限りなく「ヤマト」的な映像作品ということのようだ。思えば、〈松本アニメ〉というのはバブルだった。「宇宙戦艦ヤマト」の思わぬ人気が生んだ副産物であってそれ以上でもそれ以下でもない。
〈松本アニメ〉とは、表側に出てくる松本零士の意匠の裏で、優秀な脚本家や作画スタッフや演出家の奮闘があって見られるものとして体裁が整えられたものがほとんどである。もし作品が評価されるとしたら、スタッフを称揚すべきだ。

松本零士はどうしたわけか「アニメ界の巨匠」などと持ち上げられて、時として日本アニメのアイコンに祀り上げられることさえある。
で、一般的にはそのように信じられていて、今回の「ハーロック」や「まほろば」のような企画にゴーサインが出たりするのだろう。投資家の首を縦に振らせるのに、松本零士という名前の威光は大きいのだろう。
困ったことだ。

御用メディアはよいしょするとともに、こんなはしゃぎっぷり。実におめでたい。