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2012/06/29

大人アニメ|獣兵衛忍風帖

川尻善昭監督の「獣兵衛忍風帖」を見た。
面白かった。
すごく面白かった。
いや、川尻善昭の実力は知っている。おもしろいのは当たり前だ。面白すぎて、3度繰り返して見てしまった。
これは1993年に公開された作品だ。おれはすっかり見落としていた。
おのれの不明を恥じたい。
アメリカで熱狂的に受けている「Ninja Scroll」はこの作品のことだった。















<ストーリー>

江戸時代。下田村に広まった謎の疫病の原因を解明しようと、望月藩お抱えの甲賀組忍びが潜入する。しかし、妖しい術を使う忍び軍団・鬼門八人衆の手にかかり、次々と惨殺されていく。くノ 一・陽炎は偶然はぐれ忍びの牙神獣兵衛に救けられる。
そのせいで獣兵衛は逆に鬼門衆から狙われることになってしまった。鬼門衆の陰謀を暴かんとしてやって来た公儀隠密・濁庵の策にはまって濁庵や陽炎と行動をともにすることとなる。
また、鬼門衆の従える男こそ獣兵衛がかつて殺したはずの宿敵・氷室弦馬(ひむろげんま)であることを知る。次々と襲いかかる刺客たちとの壮絶な戦いのなか、獣兵衛と陽炎は次第に魅かれあっていった。鬼門衆の狙いは村や港を無人にして、その間に幕府転覆を図る闇公方の軍資金を船で運ぶことにあった。獣兵衛を守るために倒れた陽炎への思いを後にし、獣兵衛は船の中にただ一人乗り込んでいく。そして不死身の術を使う弦馬との壮絶な戦いの末燃え上がる船もろとも弦馬を倒すのであった。


この映画は山田風太郎の伝奇忍者小説に敬意を表したかのように、バイオレンスとエロスがに満ちた傑作だ。川尻善昭監督は山田風太郎を耽読したに違いない。血しぶきが飛ぶは、肉体損壊シーンがたっぷりあり、殺陣の演出は斬新、凄いという褒め言葉しか出てこない。陳腐だと思いながらも凄いとしか言いようがなく、「ターミネーター2」にオマージュしたシーンにニヤリとしていたら、あっという間に90分が過ぎた。
面白い。じつに面白い。
90分という長さは、アクション映画としてちょうどいい。それ以上はケツが痛い。











獣兵衛忍風帖 [Blu-ray]



思えば、「妖獣都市」を映画館で見に行って、あまりの面白さにその日は劇場に居座って3回見たことがあった。昔の映画館は入れ替えなしだったので、そういうこともオーケーだった。で、川尻善昭という名を覚えた。
これもバイオレンスとエロスが満載で、ものすごく興奮した。
でありながら、ストーリーの根幹は純愛ドラマ。
これは「獣兵衛忍風帖」も同じで、川尻善昭監督作品の持ち味なのだ。

「妖獣都市」は世界でも評判を呼び、とりわけ映画の創り手に影響を与えたようだ。香港映画の鬼才・ツイ・ハークがプロデュース、実写映画としてリメイクもされている。なんと仲代達矢も出演している。




















さらに、「獣兵衛忍風帖」はウォシャウスキー兄弟をおおいに熱狂させ、のちに「Animatrix」に川尻監督を招いている。
川尻善昭は押井守、大友克洋と並んでカルト的な人気を博するアニメ作家なのだ。






話は「獣兵衛忍風帖」に戻る。
これは、「おもしろい」のひと言で語れる映画である。
これが小屋にかかっていてふらりと入ったらとても得した気分で出てこれると思う。
そして、非アニメファンの映画ファンにも面白さが伝わると思う。
素晴らしい。

2012/06/17

ドラマと映画の<過剰>

ドラマを見ていて、背中が痒くなる問題

日本のドラマってあまり見ない。
いや、見ようと思ってチャンネルを合わせたり、録画しておくものの、途中で見るのをやめてしまうことが多くて、結果として見ないのだ。

なんというか、見ていて背中がむず痒くなってくるのだ。
いまも「Wの悲劇」というのをつけて5分で背中が痒くなった。
例えば役者の大げさで大味な演技、例えば大げさな台詞、見ていて恥ずかしくなって、正視できなくなってチャンネルを替えるかスイッチを切ってしまった。
このドラマ、ありがちな大手事務所が主役を猛プッシュして作られたものなのも、イヤになるのだけれども。

記号的なんだよね。
「怒り」ならばこんな顔でこんな声で言う。台詞はこんな感じ。
「悲しみ」ならばこんな顔でこんな声で言う。台詞はこんな感じ。
・・・・
 記号的演技に記号的台詞を大仰に演じて、大仰にしゃべる。
過剰。
そう、日本のドラマには憂慮すべき問題がある。いや、ドラマだけではなく、映画にも同じ問題がある。 <過剰>という問題が。

映画やドラマを面白くするカギとは、<抑制>にある。
映画やドラマに必要なことは、<過剰>を排して<抑制>を効かせることではないのだろうか。役者の演技でも、台詞でも、音楽でも、画づくりでも過剰になったとたんに安っぽくなる。
過剰さ。
分かりやすい大げさな演技、安っぽい言葉を思い入れたっぷりに語る台詞まわし、もしくは過度に状況を描写する説明的な台詞、ベタに盛り上げるBGM、そういったうんざりする悪弊は日本のドラマにも映画にも蔓延している。
過剰さは安っぽさにつながる分かりやすい例は、愛する人が死ぬのをクライマックスにする恋愛映画だとかケータイ小説の映画化作品を挙げればいいだろうか。
大抵の「愛する人が死ぬ映画」は、登場人物が悲嘆にくれる様子や、死に至るプロセスに過剰さがある。どうもこそばゆくなっちゃう。
難病モノはストーリーが平板なので、ドラマも映画も飽きが来やすい。が、何年かの周期を経てまた作られる。





漫画のドラマ版を見ても、背中が痒くなる問題


漫画をドラマ化したものもひどい。
漫画の記号的な表現をそのまま再現するかのような場面が延々と続くのを見ればうんざりするばかりだ。マンガと映像表現が同じであっていいはずがない。
映画では「20世紀少年」がひどかった。
役者陣は原作漫画に登場するキャラクターの姿を丹念に模しており、演技も漫画の再現を試みている。





























結果は言うまでもなくひどいことになった。
原作自体、だらだらとしまりがないもので、それを上手に潤色できていなかった。
そもそも覆面の男が国を我ものにするなどというようなモチーフは、マンガならかろうじて成立するだろうけれども、映像化しても成立しないだろう。
そんな映画が3部作で作られてそれなりに観客を動員したというのはどういうわけだ。


日本のドラマ、映画はうすっぺらい。

そもそも企画やシナリオに金をかけず、煮詰めてもいないという寒々しい現状が浮かび上がる。
芸能事務所の思惑が先行して、タレントのプロモーション映像として作られるものに何を言ってもむなしいが、変わるときはくるのだろうか。

2012/06/16

2018年のAKB48

AKB48について書く。
流行りものに乗っかるのがキライというひねくれ者なので、AKB48については芸能ニュースでわずかにうかがい知る程度だ。
メンバーも7、8名くらいしか把握していない。マンガ雑誌などの表紙でメンバーらしき人たちを見かけることもあるが目を通す気は起きない。
先日の「総選挙」はどういうものか少しだけ興味があってYouTubeのストリーミング中継をちょくちょく覗いてみた。
若い女の子たちが順位を読み上げられると立って、泣きながら何事かを話す。貧相な顔つきの子が多いという印象だった。この人たちがアイドルと名乗り、ヒイキする人が多数いるという。まこと世間には多様な価値観があるのだな、とちょっと感心しつつ見た。

「総選挙」というバカ騒ぎは、外側から見ていてとても不気味だ。
広告代理店、テレビ局、複数の芸能事務所に新聞・雑誌までは結託してのバカ騒ぎには呆れるしかない。本来は競合する関係の芸能事務所ががっちりスクラムを組む。テレビは特番を組む。新聞社のサイトにも特設ページで「速報」などを流す。そして、メディアには批判めいた報道がほとんど見当たらない。
上位に入ったあるメンバーがこういうスピーチをした。
「悔しい力をどんどんぶつけて来てください。つぶすつもりで来てください。私はいつでも待ってます。心強い後輩が出てきたら私は笑顔で卒業したい」
すると、「あのスピーチは、ビジネスマンにも示唆に富んでいる」などと書いている者が出てくる。
本当にヘンだ。
だって、これは形を変えたCD販売促進キャンペーンだもの。
CDを売って儲けたいという連中が仕掛けた集金のためのシステムだろう。

CDに「投票券」が付いている。
一人で何票でも投票していいというルールなので、特定のメンバーに大量投票したいというファンは何百万円も使ってCDを買ったのだという。で、CDを廃棄したりする。
そういう愚挙をする者たちをテレビや新聞は報じてはいない。
まあ、そうだろうな。みんな利害関係者で儲け話に乗っかってるからな。メディアスクラムだものな。大政翼賛だものな。
その埒外にあるメディアやネットメディアくらいしか批判的なことは書かない。

当初、劇場でコアなファンだけが応援していたアイドル集団は、いつの間にか商業主義を身にまとってお金を収奪するシステムとなった。
そしてそのシステムは<流行>を偽装しつつ、次なる収奪の機会をうかがっている。


2018年のAKB48


さて、作られたものとは言え、いま、AKB48は流行している。メディアを盲信するひとたちの間で。
でも、流行はいつまでも続きはしない。
いつかAKB48の人気は下落していき、やがて忘れられてしまう。

2018年。
地上波テレビでは相変わらず「あの人は今」という、かつての人気芸能人やニュースで取り上げられて有名になった人の現在を紹介する番組を放送している。
これも相変わらず毒舌で鳴る関西のお笑い芸人が司会していてひな壇には芸人やらグラビアアイドルやら作家やら、有象無象がいる。
そこには、かろうじて芸能界に残ることができたAKBのメンバーが2人ほどいる。
この番組では名を成した人たちの今が紹介される。もちろん、紹介できるような「その後」を送った人たちのみである。
この番組ではAKB48だとかSKE48だとかNMB48だとか、そのかつてのメンバーは2人だけ登場した。あとは悲惨すぎたとかすでに連絡が取れないとかこの世にいないとか実際は人気がなかったとかそういう理由で取り上げられはしない。
整形を病的に繰り返して容姿が変貌し、精神の健康すら損なった者、多少容姿が良かったのが幸いしたのか、金満家に囲われたもの、薬物に耽溺してしまった者、アイドルという過去を捨てて勉学に励み、学究の徒になった者。
数百人もいたアイドル集団は跡形もなくなった。

マスメディアは元AKB48メンバーのゴシップを追いかける。かつてはおこぼれに与っていたというのに、今はゲスな本性を隠そうともしない。
マルチ商法の広告塔になった元メンバー、カルト宗教に走った元メンバー、薬物中毒者となったとの噂が絶えない元メンバー。

番組にはおそろしく太った女性が映っている。しかし、顔にはモザイクがかけられている。
彼女はひたすら何かを食べているようだ。彼女は、かつて「総選挙」で上位に入ったものの、独立後は人気を喪い、表舞台から消えていった。彼女は実家に戻り、こころを病んで
過食と拒食を交互に繰り返すようになった。

個人的な印象でいうと、AKB48は肯定的な印象を持ち得ない。
前近代的な芸能集団で、現代版越後獅子やら猿回しの猿を連想する。




おれが気に入っているアイドルグループは「恵比寿マスカッツ」。





楽曲がいいし、パフォーマンスもいいし、メンバーどうしがとても仲良いのも見ていてとてもいい感じだ。じつは正統的なアイドルをやってるのがすばらしい。
推しメンは3代目リーダーのきっしーこと希志あいの。
かわいい。
すげーかわいい。



































































で、これが総選挙第2位。
「美」に対する感覚、おれがずれてるのだろうか?



2012/06/11

CDは手売りの時代へ

街を歩いていて、もしくはショッピングモールに出かけた時、確かここにCDショップがあったはずだ、と思って足を向けることがある。けれども、なくなっていることが多い。街なかの本屋とCDショップはどんどんなくなっていった。どちらも、大型のチェーン店ばかりになりそうだ。

思い返すに、この数年、あまりCDを買っていない。たまに買うときにはアマゾンで買う。ラジオで曲を聴いて気に入って購入するパターンが多い。そういったわけなので、CDショップには足を運ばなくなってしまった。
iTunesでダウンロード購入することもある。1曲単位で買えるのはありがたい。
ああ、でもCDも音楽配信も買う機会が減ったな。
気になる曲はYouTubeで検索してそれを聴くようになった。
検索すると、聴きたい曲は見つからないということがない。しかも、CD化されていない珍しい音源も見つかったりするからたまらない。
ずっと音楽を聴いていたい時にはネットラジオにアクセスするか、サウンドクラウドというサイトでDJがつないだRemixを探したりしている。
おれは音楽業界にほとんど貢献していない。

昔、レコードプレイヤーを持っていなったおれは、レコード屋のカセットコーナーに行って、テープとして売られるアルバムを買った。それは数百本に達し、加えてエアチェックしたテープも千本以上あった。
だけど、引越しですべて捨ててしまった。
その後、CDに移行した。
しかしながら、ある時期からテレビやラジオなどで耳にする歌に関心が持てなくなった。とりわけJ-Popなどというコトバが登場した頃から。<何を聴いてもつまらない病>にかかったので、当然CDは買わなくなった。かろうじて、昔聴いたアルバムの再発売盤を細々と買う程度。
J-Popが空前の好況で小室サウンドだとか、B'zだとかのブームもまるで知らずに過ごした。
日本のレコード業界が我が世の春を謳歌していた時期を知らず、今、衰退してしまったことを知る。

日本のCD生産額は1998年の5878億円がピークで、以降は減り続けた。2009年には2459億円。今年はさらに減っているはずだ。
みんな、CDを買わなくなったんだなあ。
市場規模が半分以下に縮小したので、ショップも立ちゆかないのは致し方ない。
街に出るとCDショップはあまり見当たらない。目立つのはチェーン展開するレンタル店ばかり。地方都市などに行くと、商店街からレコード店は消えて、ロードサイドやショッピングセンターのなかにあるチェーン店ばかり。クルマに乗っていかないとCDが買えない。
今後、どんどんCD店は潰れて、大手チェーン店もレンタル店も不採算店を整理すると思う。

大物アーティストたちのCD売上も著しく低下している。
http://d.hatena.ne.jp/wasteofpops/20120610http://d.hatena.ne.jp/wasteofpops/20120610


未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか (中公新書ラクレ)

世界のエンタメ業界地図2012年版 (ビジネスファミ通)


もうCDは古いメディアだ。
あの大きさでデータ容量はたかだか700MB、収録可能な時間は74分。もはや貧弱だ。
しかも、数が増えると場所を取る。
iPodに慣れると、CDプレーヤーの操作すら面倒に思える。
音楽は、ネットでデータとして買うほうが合理的なのは言うまでもない。
けれど、音楽が「アルバム」主体ではなく、バラ売りになるのはいささか寂しい。

CDの売上低下についてもうひとつ考えられることがある。
CDの中身=音楽とその価格設定が見合っていない、そう考える人が多くなったのかもしれない。価値のない音楽に高い値付けがされている。高くて品質の低いものが流通していて、消費者が購買を控えるようになったのかもしれない。
せいぜい出せる金額はレンタル代くらいですよ、と。

され、CDはどうなってしまうのか。
ふと頭に浮かんだのは、浅草やアメ横や亀戸にある演歌専門のレコード店。
じつはレコードは置いていない。CDもあまりなくて、売り場のほとんどがカセットテープによって占められる。
演歌を聴く人=世代はカセットが扱いやすいようだ。
そう遠くないうちに、CDもそうなってひっそりと販売されるようになるかな、などと思う。パソコンにもデジタル音楽プレーヤーにも縁がなくて、CDラジカセを愛好する人が買うのだ。

近頃、<アーティスト>と称する人たちもイベントを催して、会場でCDやグッズを手売りをするのが主流になっているようだ。でないと、お金が入らない。
<アーティスト>などと言っても、レコード店やスナックを廻ってCDを手売りする演歌歌手と同じだ。面白い。

で、パッケージメディアが廃れたあとはどうなるんだろう?
あれか、クラウドに音楽データを置いてネットを介して聴くのかな?
高音質音源のダウンロード販売は、興味ある。

2012/06/06

旅に出てタバコをやめた。

タバコを吸わなくなって、約3年経つ。

3年前の夏、10日間ほどの旅に出た。おれは家人に「タバコはやめた」と嘘をついて隠れて吸っていたので、旅の間は吸わないことにした。
最初の2、3日は、タバコを吸いたいという衝動がたえず襲ってきて辛かった。
しかし4日を過ぎる頃からその衝動が来る周期が長くなって、辛さもだいぶ軽くなっていった。衝動と戦いつつ、旅先のそうして10日間吸わずに過ごした。
行ったのは中国・雲南省の麗江と大理、そして上海。観光にしても食事にしても色々と刺激的な体験に満ちていたので、タバコが吸えないイライラはかなり紛れた。
禁煙のきっかけに旅を使うのは悪くないかもしれない。
まず、出国したら免税店のタバコ売り場の誘惑を振り切るところから始めるのだ。

旅が終わって帰国した。
思いのほか、禁断症状が軽微だったこともあり、タバコを吸わないことにした。本当に吸いたくなるまでガマンしようと決めた。隠してあったタバコとライターを捨てた。
止めよう、というのではなく、ガマンするのだと自分には言い訳した。意思が弱いので、逃げ道は作っておきたかった。
タバコを吸いたくなったら、水かお茶を飲んだ。飴やガムは使わなかった。糖分の過剰な摂取と代替品への依存は避けたかった。
水やお茶を飲めば、タバコを吸いたい衝動は薄れる。その代わり、トイレに行く回数が増えた。
あと、コーヒーを飲むのをしばらくやめた。
それまでは、タバコを吸うとコーヒーが飲みたくなり、コーヒーを飲むとタバコを吸いたくなるという悪循環を繰り返していた。一日に10杯以上もコーヒーを飲んでいたので、とうぜんタバコの本数も多かった。
おれはニコチンとカフェインに強く依存していた。

そのうち<タバコを吸いたい衝動>が来る周期はどんどん長くなっていった。
ひと月、半年、1年と、タバコを吸うのをガマンし続け、今に到る。
禁煙の体験談を記したブログを色々と検索してみると、おれはずいぶんと楽にタバコと縁を切れたようだ。離脱症状に苦しんだり、病院に通たりさまざまな禁煙グッズを試したりろ、それなりにお金を使ったりという人が多い。
我ながら幸運と言うしかない。水とお茶で気をまぎらわせるうちにタバコに手が伸びなくなったのだから。

タバコを吸わない苦痛より、タバコを吸わなくなって体調が良くなった喜びのほうが大きかった。
タバコを吸わなくなって、朝の目覚めはとても快適なものになった。
タバコを吸っていた頃は、目覚めが不快だった。胸のあたりが気持ち悪い。とくにタバコを吸い過ぎた翌朝は最悪で、気持ち悪い上に胸が痛くなったりしていた。
で、どこかで見た「タールで汚れた黒い肺」の写真が脳裏に浮かんでぞっとなる。ところが
旅に出てタバコを吸わなかった。翌朝目が覚めたとき、気持よく目を覚ますことができた。それは何年も味わえなかった気持ちよさだった。
動悸や息切れをしなくなったのも、うれしかった。
ちょっとした階段を上がるのにも息が切れていたおれは、タバコを吸わなくなって半年後、、マンションの非常階段を8階まで登っても平気になっていた。





禁煙した多くの人と同じで、タバコの煙がひどく苦手になった。
屋外の喫煙所や、喫煙可のコーヒーショップを避け、分煙のレストランでは禁煙席に行く。
やむなく街なかの喫煙所の前を通るとタバコの煙にむせそうになって、足速になる。おそらく、その時おれは顔をしかめていると思う。
タバコのにおいがとても苦手になってしまった。

しかし、今でもたまにタバコを吸いたい、と思うことがある。その気持はすぐに収まるけれども、やはり<中毒>から抜け出すのは容易ではない。

2012/06/05

ヤマト2199・ガンダムUCとアニメの黄昏

考えてみれば、アニメはテレビをつけたらただで見られるし、ただで録画できるものだ。
アニメ番組を放映し、見ている子供や大きな子供対象の商品を扱っている会社がスポンサーになってCMを流す。結果としてモノが売れれば、会社は儲かり、子どもや大きな子供は喜ぶ。シンプルなWin - Winの関係だったはずだ。
深夜に放映しているアニメ番組は、DVDやBlu-ray、キャラクター商品を売るためのプロモーションとしての色合いが濃い。気に入った人はもっと画質の良いソフトや、グッズを買ってねというわけだ。
これまた、ただで見られる。
そんな当たり前のことを思い返したのは、「宇宙戦艦ヤマト2199(1)」のBlu-rayの値段の高さに驚いたからだ。
ただで見られるはずのアニメがカネを出さないと見られなくって、しかも高い。
50分、TVアニメ2話収録したものが7,100円。
これは高いと思う。販売元のバンダイビジュアルは、もとより映像ソフトに高い値付けすることは承知している。でも、それにしても高い。
「宇宙戦艦ヤマト2199(2)」は4話収録、特典映像を含めて166分で8,100円。50分で7,100円に比べると安く感じられるけれども、amazon.comでアニメのBOX価格を調べると、日米の価格の隔たりには驚くしかない。

Infinite Stratos 

以前、「ブレードランナー」のDVD-BOXの国内盤を買おうと思ったら1万5千円で手が出ず、アメリカ盤を買った。国内盤の5分の1だったので。この差は大きい。(後に、国内盤も新古品3千円でゲットしたけれども)

今どきアニメーションのソフトの価格とは「価値」「満足」への対価なのだから、「高くないよ」と言えるひとが買うんだろう。




この「宇宙戦艦ヤマト2199」に先立って、「機動戦士ガンダム Unicorn」は全国映画館での期間限定イベント上映、DVD・Blu-ray発売、ネット有料配信の戦略が功を奏して大ヒットになった。ヒットの理由について、サンライズの宮河恭夫プロデューサーが講演のなかで語っている。

宮河
それで、まずやはり有料配信が物議を醸しまして、有料配信をしちゃうと映画館に人が来ないんじゃないかとずいぶん映画関係の人から言われま した。でも僕は「関係無いよ」と。映画館というの大きな画面で見るわけだし、有料配信っていうのはネットで見るので限られたサイズの画面でしか見られない ということで。ただ実は有料配信に関してもクオリティの高いものを見てもらいたいというのがありましたので、安定的なHDが見られる環境でPlayStation Network(PSN)が当時一番だったのと、ガンダムUCのターゲット層がPS3の購買層と合致したので、PSNと組んで最初はHDで独占配信しました。ちなみにここでも面白いデータが出て、HDとSDでのネット配信では、HDの購入数のほうが圧倒的に多かったです。

結果的にイベント上映、有料配信、そしてBlu-rayがどういう効果をもたらしたかというと、おかげさまで成功だったと思います。エピソード2のとき は、映画館用に5000枚用意したBlu-rayが1日で売り切れてしまいましたので、エピソード3では1万枚は用意しようと思っています。公開している 映画館10館でそれだけ売れて、一般市場では20万枚を超えるヒット作と考えています。先ほど言ったPSNでも非常に高い数字が出ていますので、みんなが考えてる大人の事情のウインド戦略っていったいなんだったんだろうな、というのが今の感想ですね。

     GIGAZINE
  「これからは大人の事情の戦略は通用しない、サンライズ宮河常務の語る今後の

   コンテンツ産業の新マーケティング」から引用。

 「ウインド戦略」は、「映画公開後、またはTV放映後、ウインドを開けてDVD・Blu-rayを発売する」という意味なんだという。その間に購買意欲が下がるから、公開・配信と同時にDVD・Blu-rayを出してみようとした。で、これが大当たりした。

当然、<柳の下のどじょう>が出てくるだろうなと思っていたら、それが「宇宙戦艦ヤマト2199」だった。
1エピソード24分というTV放映の長さになっているところからすると、当初はテレビ放映主体の展開を目指していたのかもしれないとも思う。
「宇宙戦艦ヤマト復活篇」という大駄作にして興業失敗作のあとだけに、果たしてどうなるかと思っていたけれども、セールスは順調のようだ。
まあ、一部公開・配信されたPVや1話冒頭を見て興奮しないオールド・ファンはいないだろうけれども。あれで一気に盛り上がった。
単純な話、ていねいに作ってあって質が高いアニメだったら食指が伸びるし、ソフトを手元に置いておきたいと思うわけだ。で、ソフトがほしいとなったらamazonですぐに買える。ウェブサイト上のプロモーションは、販売に誘導しやすく効率がいい。
あと、ほんらいアニメは好きあのだけれども、今放映しているアニメはどうにも肌に合わないというファンにも福音となったんだろう。

「ガンダム Unicorn」「宇宙戦艦ヤマト2199」ともにDVD・Blu-rayを売るための戦略であり、それが見事功を奏した。購買意欲が高いうちに一気に売る。
しかし、「ガンダム」「ヤマト」という強力なコンテンツだからこそ売れた点は否めない。この手法でオリジナル新作を売ったらどうなるんだろう?

こういうアニメの売り方にも高齢化社会・少子化社会の影響が見て取れるように思う。
子供がどんどん少なくなっていき、市場が狭まるとアニメの視聴者は減っていく。
それを補って新しい市場を作りたい。
となれば物心ついた時からアニメを見て育ち、いまだにアニメから離れない層を深く掘ろう。しかも、思い切り客単価を上げよう。
いま頃「宇宙戦艦ヤマト2199」に続こうと企画書を書いている連中はわんさかいるんだろうなあ。


そういえば、「仮面ライダー」もちょっと方向性は違うけれども、子供以外のお客さんづくりをかなり意識している。
とくに近年の映画はTVと違う層をねらっている。映画を立てつづけに公開し、DVD・Blu-rayを出す。<ディレクターズカット版>というプレミア性も付加している。
買うのは多分、平成仮面ライダーシリーズを見て育った20〜40代。 しかもイケメン俳優を使ってきたおかげで女性ファンもたくさんいる。
仮面ライダーや戦隊モノの劇場版は、東映の年間興行収入では上位に来るドル箱になっていることには驚く。(というよりも東映は企画が貧困な印象ではある)

しかし、なぜ「仮面ライダー」なんだろう。
個人的には、本格的な特撮モノというか、今の映像技術を投入した、鑑賞に耐えうるSFドラマを見たいと思うんだけれど。
あ、「仮面ライダー」って歌舞伎みたいな閉じた様式美的な世界を持ってるのかもしれないな。そういうのを好む人は「鑑賞に耐えうるSFドラマ」など求めないか。
JJエイブラムスがプロデュースしているようなSFドラマ、日本では夢なのか。





ヤマト2199のイベント上映、どんな人が並ぶかを新宿まで観に行った。予想通り、最初のTVシリーズからファン一筋という人が多かった。
あと10数年後経ったら、中高年向けアニメと特撮の映画がどんどん公開されてアニメ映画・特撮映画の行列はみな千円で入場できる年寄りばかりになるぞ。つまり、いまアニメ映画・特撮映画に行列している連中ががそのまんま高齢化していくのだ。


ところで、「宇宙戦艦ヤマト2199」はTV放映を待ちたい。つまり、ただで見たいと思うのだけれども、地上波で放送されるまでどれだけ待たないといけないのか。
というか、<ビジネスモデル>が不首尾に終わった場合どうなるのか。
単純な話、全7巻のうち、3巻あたりまでの売上が芳しくなかったら、途中で打切りもありうるのではないか?「製作委員会」は、投資に見合った利益を得られないとしたら、さっと撤退するのではないか?
となれば、ただで見たいというのも水泡に帰する。うーむ。

とはいえ。
今は最初の2話がリリースされたばかり。
気がつくとAmazonのボタンを押したい衝動と戦っているところだ。
困ったもんだ。

2012/06/01

雑誌にDVD付録 | DVDの時代の終焉

 420円のマンガ雑誌に、3時間20分の
アイドルDVDが付いていた

先日、コンビニに行ったら「ヤングアニマル」というマンガ雑誌が目に止まって思わず買い求めた。
DVDが付いている。税込420円の雑誌に収録時間3時間20分ものアイドルDVDだという。おれは、昔からオマケやら付録には耐性がない。 ついレジに持って行ってしまった。
DVDは片面二層記録、映像はきれいで篠崎愛、吉木りさ、小池里奈など合計10名のグラビアアイドルの撮りおろし映像が収録されている。撮りおろしと言ってもグラビア写真撮影のメイキング場面が多い。
ところが、4,000円くらいでリリースされるアイドルDVDのなかにはほぼ全編、写真集撮影の様子を収めてお茶を濁すようなタイトルもあったりするんである。収録時間はたかだか1時間前後。
「ヤングアニマル」の付録DVDでは、篠崎愛のパートが45分というボリュームを確保している。ほかのアイドルたちは20〜30分くらい。
マンガ雑誌だとか、一部グラビア誌ではよく付録にDVDが付いてくる。
アイドルDVDの十分の一の価格の雑誌に、グラビアアイドルのDVDが付いてくる。これは、ただでさえ大きくはないアイドルDVDの市場に打撃を与えたりしないだろうか?
既得権益を脅かす動きだとは言えないだろうか。



実は、アダルトビデオの世界ではネットの影響でDVDが売れない事態が出来しているのだという。
2012年の4月末に放送されたTBSラジオ「文化系トークラジオ Life」に出演した二村ヒトシ監督は、「ネットによって無料コンテンツが増え、エロ消費も減った」と指摘した。さらに、海外サーバーに置かれた無修正動画の配信の影響も大きい。
AVのソフトを買ったり借りていた人たちは、ネットで見られるサンプルムービーやらエロ写真やらで満足してしまうようになったのだ。(もちろん、アンダーグラウンドなコンテンツが市場を侵食しているという問題も少なからずあるとは思う)
それでもAVのDVDが出続けるのは、流通を守るためだという。
(音源がアーカイブされているので、興味のある方はどうぞ)

※「動員とマネタイズ」part8(外伝2)

そういえばコンビニの片隅にあるエロ本は、揃いも揃ってDVD付き、それも2枚、3枚、4枚も付いていて、10数時間の長時間収録だ。実質DVDに紙の頁がくっついてくるといった体で、アダルトDVDの市場を奪っているかもしれない。290円の雑誌にサンプルムービーを多数収めたDVDが付いていたりして、<実用>としてはそれでも済むのかもしれない。ただし、カウンターにいるのが女性の店員だとなかなか精算しにくい。

グラビアアイドルの市場も、はるかに規模は小さいけれども同じような状況だと思える。ネットの影響は深刻だが、さらに、マンガ雑誌に付いてくるアイドルDVDは、少なくない数の潜在顧客を奪っているように感じる。

いや、<グラビアアイドル>自体、瀕死の市場ではあるんだけれども。
最近まできわめて小さなサンクチュアリだったかもしれない。ソフトショップや書店でっ催されるイベント、撮影会など、アイドルとファンが作り出す(幻想としての)サンクチュアリだ。けれども、もうそんなものはなくなったように思う。

コンビニに行くと、DVDを付録にする雑誌がけっこうある。
女性誌にはメイクのしかたを解説したDVDや、ヨガやダイエット体操を紹介するDVD、「anan」では女性向けアダルトDVDが付いたこともある。この号、珍しくて購入した。
ほかにもパチンコ雑誌には攻略法DVD、DVD/Blu-Ray情報誌には長尺の映画プロモーション映像だとか、海外ドラマ第1話をまるまる収録したDVDが付くことがある。「週刊SPA!」にはJ.J.エイブラムス監督の「スタートレック」の前半をまるまる収めたDVDが付いたのは驚いた。製品盤よりビットレートを低く設定していたけれど・・・。




光学メディアは終焉へと向かう

DVDがごく当たり前に雑誌の付録となる。
レンタル屋の貸出料金は、旧作が100円を切る。
DVDなどもう終りが近いメディアで、「古い」人にはうってつけなんだろう。

パッケージメディアの主流は、映像ソフトもゲームソフトもBlu-rayに移行しつつある。
(当方、まだBlu-rayを再生できる機器を持っていない。今のところ、持つ予定もない)

と思いきや、世間ではすでに光学メディアはすでに古いということらしい。
音楽も映画もネットからダウンロードするかストリーミングで見聞きするのが当たり前という時代が来ているらしい。「総選挙」などという商法で、一人に何十枚も買わせてミリオンセラーということにしてしまう以外の大抵のCDが売れず、DVDの売行きも落ちてきた今、記録メディアはあまり持たないで、ネットの向こう側にある音楽や映画にアクセスするのが主流になりそうな雲行きだ。
iTunesストア、hulu、そのほか携帯キャリア各社の音楽や動画の配信サービス、ウェブサイト上の有料動画配信サービスや、音楽の超高品質データのダウンロード販売など、知らないうちにサービスが充実してきた。
おれはMacBook Proを使っている。で、6月に次期MacBook Proが出るというので買い替えをしたいと考えている。
今、出回っている予想によると、新しいMacBook Proは光学ドライブをなくすらしい。
データストレージはクラウドに置いて、都度アクセスしろということのようだ。
そうか、すげーなぁ。ぜひ我がものにしたい。
そうすると、おれは膨大な枚数のDVDのコレクションをどうやって再生するのかという課題にたちまち直面することになる。
というのも、いまおれがDVDを視聴できるツールはMacBook Proしかないからだ。
いまのMacBook Proを下取りに出し、新しいMacBook Proを買うとおれがせっせと焼いてきたDVDは役立たずな円盤と化してしまう。
どうしよう。

でも、DVDを再生する機器を持たなければ、わが悪いクセ、記録メディアを貯めこむクセと決別する絶好の機会になるかな。
これまで、カセットテープやビデオテープもものすごい数貯めこんだけれども再生する機器がなくなったので廃棄した。何年にもわたっての収集の成果は跡形もない。
VCDという珍しい規格の映像メディアも、香港で大量に買って死蔵してある。

この悪癖を持ち続ける限り、メディアの規格が変わるたびにおれは旧い規格のメディアを捨て続けるだろう。その連鎖を切るのは今かもしれない。

でも、安いマンガ雑誌の付録DVDに嬉々としているおれは、はたしてDVDを捨てる勇気を持てるのだろうか?